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「食料不測の危機ではない?」農耕の起源
農耕の起源は、紀元前10,900年頃に始まった気候の寒冷化による食糧不足の危機が影響を与えたという説が有力です。が、日本の水月湖の花粉化石の分析結果を気候変動を時系列的に再現すると、農業は比較的温暖で安定した気候の時期に行われようです。
A very detailed climate reconstruction from ca. 16,000 BC to ca. 8,000 BC, based on analyses of pollen fossils included in the annually layered sediments from Lake Suigetsu, Japan, shed new light on this debate.
参照元:http://en.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=618
– 立命館大学 Ritsumeikan University. July 27, 2021 –
農業の発展は、現代人にとって画期的な偉業だった。それは定住生活の始まりであり、「文明」の発展を意味します。
しかし、人類の生活様式の革命的な変化をもたらした環境要因については、これまで議論されてきた。
農耕の起源については、紀元前10,900年頃に始まった気候の寒冷化による食糧不足の危機が、現在の人類の生活に大きな影響を与えたという説が有力です。
紀元前10,900年頃から紀元前9,700年頃まで続いた気候の冷え込みによる食糧不足の危機が、食糧生産を高めるために人類に農業を導入させたというのが、農業の起源に関する最も有力な説です。
しかし、この従来の説が疑問視されるようになったのは、この説を裏付けると思われたいくつかの植物遺体の放射性炭素年代が最近になって再評価され、その結果、気候の冷え込みの時期は定住生活の始まりではなく、衰退と中止の時期と一致することが示唆されたからです。
氷河期終了後、数千年以内に複数の地域で農業が独立して発生したと思われる考古学的観察に基づき、氷期後の気温上昇が人類に農業を導入させたと考える研究者もいます。
しかし、この説では、最終氷期の最も寒い時期でも気温が十分に高かった熱帯地域で、なぜ人類がもっと早く農業を始めなかったのかを説明できません。
この議論に新たな光を当てたのが、日本の水月湖で毎年採取される層状の堆積物に含まれる花粉化石の分析に基づく、紀元前16,000年頃から紀元前8,000年頃までの非常に詳細な気候復元です。
立命館大学の中川毅教授らの研究チームは、水月湖の堆積物に含まれる花粉化石の分析結果をもとに、この時期の気候変動を時系列的に再現するとともに、堆積物の年輪を数え、数百個の葉の化石の放射性炭素年代を測定することで、植物を栽培し、農業を基盤とした集落を建設するという最初の試みが、比較的温暖で安定した気候の時期に行われたことを明らかにしました。
研究チームの最新のデータによると、氷河期から後氷期への移行期には、安定した時期と不安定な時期が交互に繰り返されていたことがわかりました。
植物の家畜化は、紀元前13,000年頃に温暖な気候が確立されたときに始まったのではなく、紀元前12,000年頃に気候が短い間隔と大きな振幅で振動しなくなるまで待たなければならなかったのです。
農業は、計画性が必要な生業です。
しかし、事前に計画を立てるには、安定した未来が重要です。
気候が安定していなかった時代には、将来の天候を正確に予測することができず、農業に適した作物を選択することが困難であったため、農業はあまりにも危険な行為でした。
このような気候条件では、農地とは異なり、自然の生態系には多様な生物が存在し、人間はそこから「何か」を食べられると期待できるため、狩猟採集は農耕よりも合理的な生活戦略であったと考えられます。
中川教授らの今回の発見は、農耕が人類の歴史にとって革命的な一歩であったという従来の見方を覆すものです。
むしろ、農耕も狩猟採集も、気候が安定しているか不安定であるかに応じて、同じように合理的な適応戦略であったと考えられます。
気候の安定性が古気候学者の間で積極的に議論されてこなかったのは、年単位で気候変動を記録した自然のアーカイブが稀少であること、また、そのようなアーカイブを十分に高い時間分解能で分析するには、どうしても膨大な労力を必要とすることが理由として挙げられます。
日本の小さな湖から採取されたユニークな堆積物と、そこから情報を抽出するための研究チームの20年にわたる努力が、現代人の自己イメージを変えるかもしれない新たな発見への道を切り開いたのです。
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